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賃上げと設備投資を同時に進める ─ 業務改善助成金を活用するときの3つの注意点

業務改善助成金は、生産性向上に資する設備投資等(機械設備の導入やコンサルティングなど)を行うとともに、事業場内最低賃金(事業場で最も低い時間給)を一定額以上引き上げた場合に、その設備投資などにかかった費用の一部を助成する制度です。厚生労働省が、最低賃金の引上げに向けた中小企業・小規模事業者への支援事業の一つとして実施しています。賃上げと業務の効率化を同時に進められる一方で、手続きの順番や要件を誤ると助成の対象外になってしまうことがあります。ここでは、活用を検討するときに押さえておきたい3つの注意点を中心に解説します。

制度の基本的な仕組み

助成額は、対象となる経費に助成率を掛けた額と、助成上限額とを比べて低い方の額です。助成上限額は事業場内最低賃金の引上げ額と引き上げる労働者の数によって、助成率は引上げ前の事業場内最低賃金によって変わります。具体的な金額や区分は年度ごとに定められるため、厚生労働省が公表する最新の案内で確認が必要です。

手続きは、おおむね次の流れで進みます。

  1. 賃金の引上げ計画と設備投資等の計画を立てる
  2. 交付申請を行う
  3. 交付決定を受ける
  4. 計画どおりに設備の導入と賃金の引上げを行う
  5. 事業の結果を報告する
  6. 助成金が支給される

令和8年度の申請期間は、令和8年9月1日から、申請する事業場の都道府県で適用される地域別最低賃金の発効日の前日、または同年11月30日のいずれか早い日までとされています。発効日は都道府県ごとに異なるため、地域によって締切日が大きく異なります。また、令和8年度からは事業場の所在地(都道府県単位)ごとに申請フォームが異なり、GビズIDプライムを使ったJグランツでの電子申請も利用できます。

注意点1. 発注・支払い・賃上げの「順番」を守る

この助成金は、これから実施するものが対象です。鹿児島労働局の令和8年度の案内では、交付決定前に助成対象の設備を導入(納入・設置・支払い等)した場合や、交付申請前に行った賃金の引上げは、助成の対象とならないとされています。また、賃金の引上げは申請より後、かつ地域別最低賃金の発効日の前日までに行う必要があり、就業規則等の改正日・適用日も交付申請後とする必要があると案内されています。

事業の完了期限にも注意が必要です。導入機器の納品、支払いの完了、賃金の引上げは、いずれも交付決定の属する年度の1月31日までに実施する必要があります。やむを得ない理由がある場合は、事前に理由書を添えて申請することで、3月31日まで延長される場合があります。支払いは原則として振込とされ、クレジットカードなどで支払う場合は期限までに口座から引き落とされている必要があること、ポイント払いやギフトカード払いは対象外であることも案内されています。

注意点2. 引上げの対象となる労働者と労務書類を確認する

事業場内最低賃金は、雇用保険の被保険者で、雇入れ後6か月を経過した労働者を基準に引き上げる必要があります。労働者がいない場合は助成の対象となりません。賃金台帳や労働者名簿をもとに、誰が事業場内最低賃金の対象者になるのかを正確に洗い出すことが出発点です。

あわせて、次のような点も事前に確認しておきましょう。

  • 月給制の労働者も時間給に換算したうえで、最も低い時間給を把握しているか
  • 地域別最低賃金を下回る労働者がいないか
  • 労働条件の内容や手当の支給根拠、賃金台帳、勤怠の記録が整っているか
  • 常時10人以上の事業場では、就業規則が実態と合っており、周知・届出がされているか

千葉労働局の案内では、こうした労務管理の書類が整備されていない場合は助成金の受給が難しいとされ、賃金計算の誤りについても是正が必要とされています。

注意点3. 「設備でどれだけ時間が減るか」を数字で示す

申請では、導入する設備によって業務がどのように改善し、生産性が向上するのかを説明します。「効率化される」で終わらせず、1回あたりの作業時間と回数から年間の削減時間を示すことが重要です。たとえば、1回30分かかっていた手作業が1日4回あり、設備の導入で1回10分になるのであれば、1日あたり80分の削減となり、年間の稼働日数を掛ければ年間の削減時間が求められます。そのうえで、生まれた時間をどの業務に振り向け、賃上げを続けられる体制につなげるのかまで説明できると、計画に一貫性が生まれます。

設備の見積書は、競争性・公平性が担保された2社以上のものを用意し(中古品は3社以上)、申請者の関係者が作成した見積書は認められないと案内されています。また、同一事業場からの申請は年度内1回限りとされています。

計画づくりの進め方

  1. 賃金台帳から、事業場内最低賃金の対象者と賃金の分布を把握する
  2. 業務を棚卸しし、時間がかかっている作業やボトルネックを特定する
  3. 改善につながる設備・サービスの候補を挙げ、相見積りを取る
  4. 引上げ額ごとに、人件費の増加額と助成額の見込みを試算する
  5. 最低賃金の発効日、申請期間、事業完了期限から逆算してスケジュールを組む

賃金の引上げは、助成金の支給後も続く固定費です。助成額だけで判断せず、数年先までの収支計画の中で無理のない引上げ額を検討することが大切です。

計画の段階からご相談ください

申請期間や助成上限額、助成率などは年度ごとに見直されます。最新の交付要綱・交付要領を確認したうえで計画を立てましょう。株式会社ワトナルでは、制度の調査や助成額の試算、業務改善と賃金の計画づくりをお手伝いしています。申請の手続きについては、グループのワトナル社会保険労務士事務所など、手続きを担う専門家と連携して進めることができます。

参考資料