SaaSを入れても楽にならない?バックオフィス改善は「業務の流れ」から
勤怠管理や給与計算、経費精算、会計などのクラウドサービス(SaaS)は、バックオフィスの効率化に欠かせない存在になりました。一方で、「導入したのに作業が減らない」「かえって確認の手間が増えた」というご相談も少なくありません。原因の多くは、ツールそのものではなく、導入前に業務の流れを整理しきれていないことにあります。この記事では、SaaSの導入効果を高めるための進め方を、ステップに沿ってご紹介します。
よくあるつまずき
- 二重入力が残っている:勤怠と給与、給与と会計など、サービスごとに同じ情報を入力している
- 紙やExcelの工程がそのまま:申請はシステムでも、承認や転記は紙やExcelで行っている
- ルールとシステムがずれている:就業規則や賃金規程の内容と、システムの設定が一致していない
- 担当者しか分からない:設定や運用の知識が一人に集中し、異動や退職で回らなくなる
- 例外処理が多すぎる:これまでの細かな運用をすべて再現しようとして、設定が複雑になる
ステップ1:業務の流れを見える化する
まずは、誰が、いつ、どの情報を、どこに入力し、誰が確認しているのかを書き出します。たとえば「打刻 → 勤怠の締め → 給与計算 → 給与明細の配付 → 会計への仕訳 → 振込」のように、一つの業務を始まりから終わりまで追いかけると、転記や確認が重なっている箇所が見えてきます。あわせて、それぞれの作業にかかる時間と頻度を記録しておくと、改善の優先順位を決めやすくなり、導入後の効果も比べられます。
ステップ2:「置き換える・つなぐ・つくる」を切り分ける
業務の流れが見えたら、改善の方法を次の3つに切り分けます。
- 置き換える:SaaSの標準機能で対応できる部分。業務のやり方をシステムに合わせることも検討します
- つなぐ:サービス同士の連携機能やデータの取込みで、二重入力をなくす部分
- つくる:標準機能や連携だけでは埋まらない部分を、独自の開発や自動化で補う部分
最初から独自開発に頼ると、費用や保守の負担が大きくなりがちです。標準機能で対応できないか、業務の側を見直せないかを先に検討し、それでも残る部分に開発を充てるのが現実的です。
ステップ3:ルールと仕組みをセットで整える
勤怠や給与の運用は、法令や社内規程と密接に関わります。システムの設定と社内ルールを同時に見直すことで、導入後もムリなく回る仕組みになります。
勤怠管理
厚生労働省は、労働時間を適正に把握する方法として、始業・終業時刻を、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録することを示しています。やむを得ず自己申告で把握する場合は、対象となる労働者に十分な説明を行うなどの措置が求められます。打刻の方法や修正申請の流れを、この考え方に沿って設計しましょう。
給与計算
労働基準法第89条では、賃金の決定・計算・支払の方法、賃金の締切り・支払の時期、昇給に関する事項を、就業規則に記載すべき事項としています。締日・支払日、手当の計算方法、端数の処理などのシステム設定が、就業規則や賃金規程と一致しているかを確認します。規程を変える場合は、システムの設定変更と同じタイミングで行うことが大切です。
書類の保存
労働基準法第109条では、労働者名簿、賃金台帳、雇入れ・解雇・災害補償・賃金その他労働関係に関する重要な書類の保存が義務付けられています。厚生労働省の解説によると、保存期間は5年に延長されましたが、経過措置により当分の間は3年とされています。サービスを乗り換えたり解約したりする場合に、過去のデータをどのように取り出し、保存するのかを導入時に確認しておきましょう。
ツールを選ぶときに確認したいこと
- 自社の規模や働き方の特徴(シフト制、複数拠点など)に合っているか
- すでに使っているサービスと連携できるか
- 承認の流れや閲覧権限を、社内の役割に合わせて設定できるか
- データを一括で書き出せるか
- 法改正への対応やサポートの体制はどうなっているか
- 初期費用・月額費用が、利用人数の増加も含めて無理のない範囲か
導入後に定着させるために
切り替えの直後は、従来の方法と一定期間並行して運用し、結果を突き合わせると安心です。操作手順や例外時の対応を簡単なマニュアルにまとめ、複数の担当者が対応できる状態をつくりましょう。導入から数か月後に、作業時間がどれだけ減ったかを最初に記録した数字と比べると、次の改善点も見えてきます。
IT投資と補助金
ITツールの導入には、要件を満たせば補助金を活用できる場合があります。たとえば、中小企業庁のミラサポplusでも案内されている「デジタル化・AI導入補助金」(旧:IT導入補助金)は、中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上を目的に、ITツール(ソフトウェア、サービス等)の導入を支援するものです。対象となるITツールは事前に事務局の審査を受けて登録されたものに限られ、原則として、登録された「IT導入支援事業者」とパートナーシップを組んで申請する仕組みです。補助金は公募期間や要件が決まっており、申請や交付決定の前に契約・発注したものは対象外となる制度もあるため、ツールを選ぶ段階で公募要領を確認しておくことが大切です。
株式会社ワトナルでは、業務の流れの整理から、SaaSの選定・連携の設計、独自の開発による自動化、補助金の調査や計画づくりまでをお手伝いしています。就業規則や賃金規程の見直しが必要な場合は、グループのワトナル社会保険労務士事務所と連携して対応します。計画の段階からお気軽にご相談ください。
参考資料
- 労働時間の適正な把握方法について教えて下さい。(確かめよう労働条件)(厚生労働省・2026年10月28日確認)
- 賃金台帳等の労働契約関係の書類の保存期間は何年ですか?(スタートアップ労働条件)(厚生労働省・2026年10月28日確認)
- 労働基準法(e-Gov法令検索)(デジタル庁・2026年10月28日確認)
- 【補助金】デジタル化・AI導入補助金2026の公募要領を公開(中小企業庁・2026年10月28日確認)
- デジタル化・AI導入補助金制度概要(中小企業デジタル化・AI導入支援事業事務局/独立行政法人中小企業基盤整備機構・2026年10月28日確認)
