CASE

事例紹介

転籍・労働条件変更を「争いにならない書面」で設計(2社)

顧客像
同一代表者が経営する2社のグループ、従業員の遠方移住に対応した企業
担当
ワトナル社会保険労務士事務所
テーマ
紛争予防の書面

課題

雇用元と実際の勤務先が一致していない社員の転籍、移住に伴うテレワーク化と手当の見直しで、後日の紛争を防ぎたい。

支援の内容

転籍は、代表者が同一である点を踏まえ三者合意ではなく本人との二者間書面で構成。同意が本人の意思によることは、選択肢・説明内容・熟慮期間・本人の理由を記録する確認書で残す設計とし、書式5点を作成。テレワーク化では労働条件変更通知書兼同意書を作成した。

成果・ポイント

本人の意思で転籍したことを書面に残し、事実どおりの離職理由で届け出られるよう手続を設計。

背景にある制度・ルール

転籍は、一般に、元の会社との労働契約を終了させ、新しい会社と労働契約を結ぶことをいいます。民法第625条第1項は「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない」と定めており、雇用主が変わる転籍には、本人の承諾が欠かせません。

労働条件の変更については、労働契約法第8条が、労働者と使用者の合意により労働条件を変更できると定めています。一方、同法第9条は、合意なく就業規則の変更によって労働者の不利益に労働条件を変更することはできないとし、第10条で、変更後の就業規則を周知し、変更が合理的なものである場合に限る例外を定めています。手当の廃止や減額など、不利益になり得る変更は、本人の合意を書面で確認しておくことが基本です。

テレワークについて、厚生労働省は、労働契約の締結時にテレワークが予定されていなかった場合、勤務場所や業務遂行方法の範囲を超えてテレワークを行わせるには、本人の合意を得たうえでの労働契約の変更が必要としています。また、就業規則の作成義務がある事業場ではテレワークのルールを就業規則に定めて周知すること、通信費などの費用負担は労使でよく話し合って決め、ルールを明確にしておくことが望ましいとしています。

雇用保険では、転籍に伴い、元の会社で被保険者資格を喪失する手続が必要になります。失業等給付の手続で用いられる「特定受給資格者」の範囲には、解雇のほか、事業主から直接または間接に退職するよう勧奨を受けたことによる離職や、労働契約の締結時に明示された労働条件が事実と著しく相違していたことによる離職なども含まれます。また、雇用関係の助成金には、一定期間内の解雇や退職勧奨による離職を不支給や交付決定取消の事由とするものがあります(たとえば、働き方改革推進支援助成金の賃上げ加算)。

支援のポイント

1件目は、同一代表者が経営する2社のグループで、雇用元と実際の勤務先が一致していない社員を転籍させるケースでした。転籍は、代表者が同一である点を踏まえ、三者合意ではなく本人との二者間書面で構成しました。転籍元・転籍先・本人の三者で合意書を交わす形もありますが、両社の代表者が同じであれば、会社側の意思決定は実質的に一つです。書面を必要以上に複雑にするより、本人の承諾を確実に記録することを重視しました。

そのうえで、同意が本人の意思によることは、選択肢・説明内容・熟慮期間・本人の理由を記録する確認書で残す設計とし、書式5点を作成しました。転籍には本人の承諾が必要ですが、後日「断れなかった」「十分な説明がなかった」と争われると、承諾の有効性が問題になります。どのような選択肢があり、何を説明され、どれだけ考える時間があり、本人がどのような理由で選んだのかを残しておくことが、紛争予防の要になります。

2件目は、従業員の遠方への移住に伴い、テレワーク化と手当の見直しを行うケースでした。勤務の場所や手当の変更は労働条件の変更に当たるため、労働条件変更通知書兼同意書を作成し、変更の内容と本人の同意を一つの書面で確認できるようにしました。

また、本人の意思で転籍したことを書面に残し、事実どおりの離職理由で届け出られるように手続を設計しました。転籍の経緯が退職勧奨と受け取られる記録になると、離職理由の区分や、助成金の要件の確認に影響するおそれがあるためです。

同じような課題をお持ちの方へ

  • 転籍は本人の承諾が前提です。転籍先の労働条件を事前に書面で示し、質問や検討のための時間を確保しましょう。
  • 同意書には、説明した内容と本人の意思を確認した経緯を残しましょう。署名だけの書面では、後日の説明が難しくなります。
  • テレワークへの移行では、勤務場所、出社時の交通費、通信費などの費用負担、手当の扱いを具体的に決め、書面で合意しましょう。
  • 就業規則にテレワークのルールや費用負担の定めがない場合は、あわせて整備を検討しましょう。
  • 転籍や退職の手続では、届け出る離職の理由が事実と一致しているかを確認しましょう。助成金の申請を予定している場合は特に注意が必要です。

参考資料

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